出張の朝
久々の出張。
こちらに来てからは初めての出張。
飛行機に乗るのでいつもより早い時間に駅に向かう。
電車はすぐ来ないのでタバコを吸いに一度外へ。カバンのポケットのアイコスに手を伸ばすと、後ろからおじいちゃんが。
「ここで私もタバコ吸ってもいいかい」
つまり、すこし話しませんかということだ。
「もちろんです」
「おたくはそれかい」
アイコスの話をするかと思いきや、視線は自分のタバコの箱だ。
老人はとにかくマイペースなのだ。
「ライター持ってますか」
「あぁ、大丈夫」
「医者に言われるんだけど、どうしてもこれはやめられなくて」
そう言って指に挟んだタバコを上下にひらひら振ってみせる。
「あとこれもね」
続けて、グラスを傾けて、どうしようもないなっていう笑顔をする。
そこから、僕は彼の話にずっと相槌を打った。
相槌を間違えると、ペースを乱すから、聞いてなくてもいいのだ。ずっと、うんと言っておく。
話の内容は、自分の息子が孫が、親戚がどこの企業に勤めて、どこの役職まで行って、今はその会社を辞めて、別の会社に入って、今は海外勤めだとか大体そんなもんだ。
「みなさん優秀なんですね。」
そういうと、手を横に振る。
それは、そんなことではないという意味ではないし、そんな返答をしてくれなくていいという謙遜でもない。ただ続きを聞いてくれというサインだ。
そしてまた別の人がどこの大学を出てみたいな話をし始めた。
「今日はどこへ。」
「今日は久々に千葉に出張へ。」
「そうなんだね、お気をつけて。」
「ありがとうございます。それではそろそろ時間なのでここらで失礼します。」
「さようなら」
僕は駅に、おじいさんは街に歩き始めた。